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名古屋高等裁判所 昭和43年(ネ)461号 判決 1975年1月23日

控訴人 櫟木友三郎

右訴訟代理人弁護士 鈴木正路

被控訴人 西川喜代一

<ほか五名>

右六名訴訟代理人弁護士 花村美樹

参加人 愛知県知事

右訴訟代理人弁護士 花村美樹

右指定代理人 島村芳見

<ほか八名>

主文

原判決中添付別紙目録記載(2)(4)の土地に関する部分を取消す。

控訴人に対し、

被控訴人西川喜代一は原判決添付別紙目録記載(2)の土地につき、

被控訴人横地貞子、同横地邦代、同横地宏子、同横地政孝、同横地令子は同別紙目録記載(4)の土地につき、各所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

事実

第一申立

控訴人は当審において原判決添付別紙目録記載(3)の田に関する訴を取下げ主文同旨の判決を求め、被控訴人らおよび参加人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二主張

一  請求原因

(一)  原判決添付別紙目録記載(2)(4)の土地(以下「本件土地」あるいは「本件(2)(4)の土地」という)は控訴人の所有であったが、国は旧自作農創設特別措置法(以下「自創法」という)第三条に基づき、本件(2)の土地については昭和二三年一〇月二日付、本件(4)の土地については同年一二月二日付で各買収処分をした。

(二)  しかし右買収処分には以下のような違法があり、その違法はいずれも重大かつ明白であるから、右買収処分はいずれも無効であるといわなければならない。

1 本件土地は農地ではない。

本件土地は昭和五年頃から旧都市計画法に基づき名西土地区画整理組合が宅地造成を目的として施行した土地区画整理事業の施行区域内の土地である。右区画整理事業においては、従来の細い農道とこれにそった用水路、溜池等を全部埋立て、幅員三間ないし一八間の直線道路を縦横に新設し、土地はいずれも方形または長方形に分合整形したうえ道路に面して整列せしめ家屋の建設用地として好適ならしめたほか、公園まで設置して集団生活に便ならしめる等、従来農耕を目的としていた土地を居住を目的とする土地に変質せしめたのである。また、この事業を遂行するため控訴人ら組合員は多額の費用を負担したほか、従前地の三~四割を減歩されるなど多大の犠牲を払った。

右区画整理事業は昭和一八年頃完了し、昭和二二年頃知事の換地処分の認可があったので、以後右区画整理事業施行区域内にあった土地は都市計画法上宅地となったばかりでなく、宅地建物等価格統制令の適用においても宅地として取扱われるようになったのである。

このように、宅地化の事業が完了し、知事の換地処分の認可もあった土地は、自創法上も農地とみるべきものではなく、従って、本件土地が単に農耕の用に供されていたという一事をもってこれを農地と認定して買収した本件買収処分は違法なものといわなければならない。

2 かりに本件土地が農地であるとしても、本件土地は前記のとおり宅地造成を目的とした区画整理事業が完了した区域内にあるばかりでなく、いずれも家屋密集地域に接続し、本件(2)の土地についてみれば、その西方約一五〇メートルのところには住宅営団の家屋建設地域があって既に二〇〇棟ほどの住宅が完成しなお増加の傾向にあり、本件(4)の土地附近にも続々と家屋建設中であるなど、近い将来において宅地化する高度の蓋然性を有していたのであるから、所轄農地委員会としてはこれらにつき自創法第五条第五号による買収除外の決議をなすべきであったのであり、従ってこれをなさずにたてられた買収計画は違法なものといわなければならず、右買収計画に基づいてなされた本件買収処分もまた同様に違法なものといわなければならない。

3 控訴人は買収令書の交付を受けていない。

控訴人は昭和三年一二月一二日名古屋市中区天王崎町一番地で出生し、その後実父七郎と共に同町三九番地に転居し、次いで昭和二一年一月一一日叔母にあたる櫟木まの養子になり、以後名古屋市中村区下中村町字穴田迎一番地の六五で右養母とともに生活していたが、昭和二三年六月二五日養母が名古屋市千種区桐林町一丁目四番地に転居した際控訴人もこれに伴われて同所に転居したものであり、本件買収処分当時控訴人は同所に住所を有していた。そして、控訴人は当時満一九歳の未成年者であったから、買収令書は本来親権者である櫟木まに交付されなければならなかったのである。

しかるに、本件各買収令書はいずれも控訴人の住所として控訴人が実際に居住していない名古屋市中区天王崎町一番地を記載して発行されたため、櫟木まはもとより控訴人も右各買収令書を受領することができなかった。

4 かりに右の場合、正当の理由により買収令書を交付することができない場合に該当するとしても、このような場合は自創法第九条但書に則り同条第二項の要件を備えた公告をしなければ買収の効力は生じないというべきところ、愛知県知事は単に「農地の所有者不明その他の理由で買収令書の交付できないものを同法第九条の規定によって別冊のとおり公告する。(別冊は関係方面のみ配付する。)」と愛知県公報に掲載したのみで、その別冊なるものは公告がされなかったのであるから、右公告は適法なものとはいえない。

(三)  国は昭和三一年七月一日付で本件(2)の土地を被控訴人西川喜代一に売渡し、現在同人がその登記名義を有する。

(四)  国は昭和三〇年一一月一日付で本件(4)の土地を横地兼清に売渡し、同人がその登記名義を取得した。そして同人は昭和四〇年八月一三日に死亡し、被控訴人横地貞子、同横地邦代、同横地宏子、横地政孝、同横地令子が相続により同人の法的地位を承継した。

(五)  しかしながら前記(二)の理由により、本件土地の買収処分は無効であるから、被控訴人らは右売渡処分によって本件土地の所有権を取得するに由ないものである。

よって、控訴人は本件(2)の土地につき被控訴人西川喜代一に対し、本件(4)の土地につきその余の被控訴人に対し、各土地所有権に基づき真正な所有名義回復のため所有権移転登記手続を求める。

二  請求原因に対する答弁および抗弁

(被控訴人らおよび参加人の答弁)

(一) 本件土地がもと控訴人の所有であったこと、国が本件土地につき控訴人主張の各日付をもって自創法第三条に基づく買収処分をしたこと、国が本件(2)の土地を被控訴人西川喜代一に対し、また、本件(4)の土地を横地兼清に対しそれぞれ売渡し、各所有権移転登記手続を経由したこと、右横地兼清が昭和四〇年八月一三日に死亡し、被控訴人横地貞子、同横地邦代、同横地宏子、同横地政孝、同横地令子が相続により同人の法的地位を承継したことはいずれも認める。

(二) しかしながら、前記各買収処分が無効であるという点は争う。即ち、

1 本件土地が名西土地区画整理組合の施行する土地区画整理事業の施行区域内にあり同事業が控訴人主張の頃完了したことは認めるが、現実に土地の形質が変更されない限り区画整理事業完了の一事によって当然に農地が宅地になるものではなく、本件土地は現在もなお農地として使用されているものである。

2 また、買収の当時本件土地が自創法第五条第五号の指定をなすべき状態にあったという点は否認する。かりに右指定をなさずに買収したことが適当でなかったとしても、その瑕疵は当該買収の当然無効をもたらすほどに重大かつ明白なものとはいえない。

3 本件買収処分当時控訴人が未成年者であったにしても、控訴人は既に一九歳であって昭和二三年一〇月二日付買収処分から二ヶ月余、同年一二月二日付買収処分からわずか一〇日後には成人に達したのであるから、買収処分当時買収令書の内容を理解するにつき成年者と変らないだけの能力を有していたものであり、そのような者に令書が交付されているからにはその者が未成年者であったという一事をもって交付手続の瑕疵が重大であり買収処分が無効であるということはできない。

4 かりに右主張が容れられないとしても、控訴人は昭和二四年一〇月三日に本件買収の対価を受領しているから、控訴人は成人に達して間もなく本件買収処分がなされたことを了知したものと推認することができ、そうであれば民法第九八条但書の趣旨からしても本件買収令書交付に存する瑕疵は治癒され、買収令書に記載された買収期日にさかのぼって本件買収処分の効力が生じたというべきである。

(被控訴人らの抗弁)

(三) かりに本件買収処分が無効であるとしても、国は本件各買収によって善意無過失に所有の意思をもって本件土地の占有を開始し、従前からの耕作者にこれを貸付けて平穏公然に占有(代理占有)を続け、本件(2)の土地については西川喜代一が昭和三〇年一一月一日に内二六歩を、昭和三一年七月一日に内七歩を国から売渡を受け、本件(4)の土地については横地兼清が昭和三〇年一一月一日に国からその売渡しを受け、それぞれ国の占有を承継して通算一〇年以上平穏公然善意無過失に占有を継続したから、右売渡を受けた者は時効によりそれぞれ当該土地の所有権を取得した。

(参加人の主張1(二)の補充)

(四) 旧都市計画法に基づく土地区画整理事業は、地域内の土地の宅地としての利用増進を目的としてなされるものではあるが、そうであるからといって直ちに事業施行区域内の農地が何らの手続をまたず当然に、またその形質を変更することなく宅地となるものではない。また右事業は区域内の農地をすべて潰廃し宅地化するものではなく、旧都市計画法においても直接に区域内の農地を宅地に転換することを強制するような規定はない。そして右事業施行区域内の農地であっても、自創法第五条第四号による都道府県知事の指定がない以上買収を禁じられているものではない。

(五) 本件土地の買収当時の周囲の状況は、市電終点「中村公園前」電停から南方に約一、〇〇〇メートルの位置に豊国通と千成通とが交差し、それより東北および東南の方面約五〇〇メートルから六〇〇メートル先に本件土地があり、西方に飯田牧場、数軒の鉄道官舎および市営押木田住宅、東北方面に被控訴人らの居住する下中部落の農家が若干あったのみで周囲一帯は水田であり、北西方面には中村公園の大鳥居が見え南方にははるか彼方に烏森の農家部落を遠望するような広大な農耕地帯であった。かかる地帯の中に本件土地は所在していたのであり、しかも豊国通、千成通とも一応計画された道路ではあったが未完成であり、その大部分は耕地として利用されており道路とは名ばかりの土盛り程度のものであり、主要幹線道路とはとうてい言えない状況にあり、千成通に至っては両側の路端は掘り起され豆類、そ菜等が作付けされ、残る中央部分も石ころや繁茂する雑草でリヤカーが通ることも困難な状況にあり、道路というよりも農道として利用されていたものであり、このことは豊国通が昭和三一年一二月に、また千成通は翌三二年になって全面開通している事実から推しても明らかである。また買収当時の当地域一帯の地盤は中村区内でも最低部であり湿田地帯であってガス・水道等の都市的施設などあるはずがなく、農業用排水路はそのまま存続しており、農業用水の調整を図る溜池も所々に存在し、周囲の水田に水を補給するのに大いに利用されていた。また押木田住宅は旧陸軍の高射砲陣地の跡地を利用したものであって、控訴人が住宅密集地域の中に本件土地が所在していたと主張するのは失当であり、買収後も長年月にわたり引続き使用目的を変更することなく農地として耕作の用に供されてきたものでありその立地条件を詳細に検討すればとうてい本件土地が自創法第五条第五号の適用を受けるべき土地であるということはできず、所轄農地委員会が同法第五条第五号に基づく指定をしないで買収処分を行ったことに何らの違法も存しない。

(六) 本件(2)の土地の買収は昭和二三年一〇月二日付「愛知名古屋中村ち三七三号」の買収令書をもって、本件(4)の土地の買収は同年一二月二日付「愛知名古屋中村リ第二〇九号」の買収令書をもっておこなわれているが、いずれの令書も控訴人に交付されている。即ち、

1 昭和二三年一〇月二日付の令書について、控訴人は日本勧業銀行に対し買収対価の受領に関する一切の件を委任する旨の控訴人の記名押印のある委任状を提出し右対価を受領しているものであるが、右委任状は令書の半片をなすものであることからも該買収令書が控訴人に交付されていること明らかである。

2 昭和二三年一二月二日付の買収令書についても、同年一〇月二日付の買収令書と同様の手続方法で控訴人に交付されたものであるが、ただ一二月二日付の令書については令書の半片をなす令書受領証が返送期限までに返送されなかったため、事務処理の確実を期するため公告をなし、公告をしたものについて買収対価はすべてこれを供託したものであるところ、控訴人は後に該供託金の還付を受けているのであり、右還付を受けるには供託書、買収令書またはこれに代る農地対価等受取人たる証明書の提出を要するものであることからして、控訴人が該買収令書の交付を受けていること明らかである。

(七) かりに控訴人またはその法定代理人が本件各買収令書を受領していないとしても、買収令書は必ずしも本人または代理人によって現実に受領されることを要するものではなく、これらの者が買収令書の内容を了知し得る状態におけば足りると解すべきである。本件買収令書記載の控訴人の住所である名古屋市中区天王崎町一番地には控訴人は少くとも昭和二〇年頃まで実親その他の家族と共に居住し、買収処分のおこなわれた当時には同所に実兄櫟木久助の事務所が存在し、同所の向い側至近距離の同区天王崎町三九番地には控訴人の実親や右櫟木久助およびその妻、控訴人の妹が居住し、控訴人はこれらの親族と親しく往来していたのであるから、本件買収処分当時控訴人が同所に居住していなかったとしても、櫟木という稀な氏を称する控訴人宛の各買収令書は、中区天王崎町一番地に宛てて発送されることにより同町三九番地に居住する控訴人の親族の何人かによって受領されたであろうことは容易に推認し得るところであり、そうであるなら右買収令書は控訴人またはその法定代理人において容易にこれを入手しその内容を了知し得る状態におかれたというべきである。

(八) かりにそうでないとしても、本件各買収処分においては後に買収令書の交付に代る公告がなされており、控訴人において買収の対価および買収にかかる供託金を受領しているから、買収令書不送達の瑕疵は治癒されたものといわなければならない。

三  抗弁に対する答弁

被控訴人らは本件土地の区画整理事業が完了していたことを知っており従って近く宅地化される運命にあったことは知り得た筈であり、そうであるならこのような土地に対する買収処分が無効であることを知らなかったとしてもそれは法律の不知に属するから無過失とはいえない。また国は無効な買収処分によって占有を開始したのであるからその占有には過失がある。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  控訴人は訴訟法上の主張として、被控訴人ら訴訟代理人弁護士花村美樹が参加人訴訟代理人をも兼ねることは違法であると主張するが、行政事件訴訟法に基づく参加人は民事訴訟法第七一条に基づく参加人と異り訴訟当事者との間において自己の権利主張をなすものではなく、また、いわゆる争点訴訟において行政処分の有効を主張する側の当事者と当該行政処分の処分庁たる参加人との間には実質的にも対立関係はないから、本件において被控訴人ら訴訟代理人が参加人訴訟代理人を兼ねていることは何らこれを違法視するに当らず、控訴人の右主張は理由がない。

二  本件土地がもと控訴人の所有であったこと、国が本件(2)の土地につき昭和二三年一〇月二日付をもって、本件(4)の土地につき同年一二月二日付をもって自創法第三条に基づく農地買収処分をしたこと、国が本件(2)の土地を被控訴人西川喜代一に対し、本件(4)の土地を横地兼清に対しそれぞれ売渡し、各所有権移転登記手続を経由したこと、右横地兼清が昭和四〇年八月一三日に死亡し、被控訴人横地貞子、同横地邦代、同横地宏子、同横地政孝、同横地令子が相続により同人の法的地位を承継したことは当事者間に争いがない。

三  控訴人は本件各買収処分は無効であり従って本件土地は依然控訴人の所有であると主張するのでこの点につき判断することとし、先ず買収令書の交付の点について検討する。

(一)≪証拠省略≫によれば、控訴人は昭和三年一二月一二日名古屋市中区天王崎町一番地において出生し、終戦の暫く前まで家族全員が同所に居住していたが、戦時中の強制疎開により同所を立退き、終戦後は右天王崎町一番地と道路を一つ隔てた向い側の同町三九番地に居住するようになったこと、控訴人は昭和二一年一月一一日櫟木まの養子となり、実親と別れて右養母の当時の住所であった名古屋市中村区下中村町字穴田迎一番地の六五に転居し養母と共に生活するようになり、さらに昭和二三年六月頃養母と共に名古屋市千種区桐林町一丁目四番地に転居したこと、前記天王崎町三九番地にはその後も控訴人の実父母・実兄櫟木久助とその妻・控訴人の実妹らが居住し、同町一番地には右櫟木久助の事業のための事務所があったことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  ≪証拠省略≫によれば昭和二三年一〇月二日付および同年一二月二日付をもって本件買収処分がなされた際控訴人の住所は中区天王崎町一番地にあるものとして事務処理がなされていたことが認められる一方、弁論の全趣旨により本件(2)の土地の買収対価・報償金受領の委任状として控訴人名義で日本勧業銀行名古屋支店に提出されたものであることが認められる≪証拠省略≫には控訴人の住所として中区天王崎町三九番地と表示されていることが明らかであり、右控訴人の住所氏名の記載は控訴人がしたものではなく、名下の印影も控訴人の印鑑を押捺したものではないことが≪証拠省略≫によって認めることができ、また、昭和二三年一二月二日付をもってなされた本件(4)の土地の買収処分の買収令書はその半片をなす令書の受領証が返送されなかったこと参加人の自陳するところであり、右買収対価も≪証拠省略≫によると控訴人自身が受領したのではなく「渡辺嘉八」という代理人名義で受領されていることが認められるところ「渡辺嘉八」と控訴人の関係はこれを明らかにできる資料は全然ない。

(三)  以上の事情からすれば、本件各買収処分の買収令書が控訴人またはその親権者である養母櫟木まに現実に交付されたとすることは極めて疑問であって、むしろ他に控訴人または養母に交付されたことを窺わせるような資料のない本件では控訴人または養母に買収令書は交付されなかったと認定するのが相当である。

(四)  もっとも、右(一)(二)に認定したところによれば、本件各買収令書が控訴人の実父母・実兄またはその他の実方親族に対し手交または郵送されたのではないかという疑は多分に存するところであり(≪証拠判断省略≫)、この事実が認められるとすれば、前記(一)掲記の証拠により櫟木まの亡夫と控訴人の実父は兄弟であること、控訴人は養子縁組後も時々実家を訪問していたことが認められることとあわせ考え、控訴人または養母において本件買収令書の内容を了知した可能性の存することは否定できないところではあるが、前記(一)(二)に認定した事実に徴すると、控訴人または養母が買収令書の内容を現実に了知したことを推認し、あるいは控訴人または養母において買収令書の内容を容易に了知し得ることから令書の交付と同視すべき状態が存在したことを確認するまでには至らず、他にこれらを窺わせるような資料はない。

四  参加人は、本件買収処分につき買収令書の交付がなかったとしても、交付に代る公告がなされていると主張する。しかしながら、かりに本件各買収処分において公告をもって買収令書の交付に代えることが許されるとしても、その公告の内容は買収令書の記載と同様のものでなければならないと解されるところ、≪証拠省略≫によれば、本件買収につきなされた公告は自創法第九条所定の買収令書の記載要件の殆んど全てを欠くものであり、従って買収令書の交付に代る公告としての効力を有しないものであるといわなければならない。

五  以上検討したところにより、本件買収処分には重大かつ明白な違法があり、買収処分としての効力を有しないものといわなければならない。

六  そこで次に被控訴人らの取得時効の主張についてみるに、被控訴人らは国の占有期間をも通算して占有の継続を主張するものであるから国の占有が帯有する瑕疵をも承継すべきところ、国は自らの機関によって違法な買収手続をおこなった結果無権原占有者となったものであるから、国の占有は過失ある占有というべきであり、従ってこれとの通算により占有が一〇年間継続したとしても取得時効は完成しない。

七  そうすると、本件土地の所有権に基づいて被控訴人らに対し真正な登記名義回復のための所有権移転登記手続を求める控訴人の請求は理由があり、認容すべきものといわなければならない。

よって、右と結論を異にする原判決中の添付別紙目録記載(2)(4)の土地に関する部分を取消したうえ該部分に関する控訴人の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 綿引末男 裁判官 山内茂克 清水信之)

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